来館・成約

他の式場の見積書を持ってきた二人には、値引きの前に「条件を揃える15分」を出す。仮の式場で総額の差89.7万円のうち、52.2万円は前提の違いだった

見学の終盤に、二人がカバンから別の式場の見積書を出す。こういう場面は、プランナーなら何度も経験していると思います。そのとき多くの式場は、総額の差を見て、その場で「いくらなら決めてもらえますか」と値引きの話に入ります。僕はこの対応が、いちばん損をしやすいと見ています。差の中身を見る前に引いた金額は、引かなくてよかった分を含むからです。

結論を先に書きます。見積書を持ってきた二人に最初に出すべきなのは、値引きの数字ではありません。二つの見積書を同じ条件に並べ直す15分です。仮の60名の披露宴で計算すると、総額の差89.7万円のうち、52.2万円は値段の差ではなく「何が入っているか」の差でした。そこを揃えずに値引きすると、本来は必要のない52万円分を、こちらが先に引くことになります。

なお、この記事の数字はすべて、僕が置いた仮の前提です。二人が他の式場の見積書を持参する割合や、持参した二人の成約率について、僕が確かめられた公開データはありません。業界の傾向として読まず、自分の式場の数字に置き換えるための型として読んでください。

総額の差の中身

二つの式場の見積書は、同じ形をしていません。項目の名前も、含まれる範囲も、税やサービス料のかけ方も、式場ごとに違います。だから総額だけを並べると、差の大きさは実際の値段の差より大きくも小さくも見えます。

仮の例で見てみます。60名の披露宴、土曜の昼です。

自社の見積書(A)はこうです。

  • 料理 1人17,000円 × 60名 = 102万円
  • 飲み物(フリードリンク)1人5,000円 × 60名 = 30万円
  • 会場使用料 30万円
  • 装花 20万円
  • 合計は182万円。サービス料10%と消費税10%をかけて、税込220.2万円

二人が持ってきた他の式場の見積書(B)はこうです。

  • 料理 1人15,000円 × 60名 = 90万円
  • 飲み物 見積もりに記載なし
  • 会場使用料 15万円
  • 装花 見積もりに記載なし
  • 合計は105万円。サービス料13%と消費税10%をかけて、税込130.5万円

総額で見ると、AはBより89.7万円高く見えます。二人にしてみれば、同じ60名の披露宴で90万円近い差です。「こっちの式場にしようかな」と思うのは自然です。

ところが、Bの見積書には飲み物と装花が載っていません。載っていないのは、無料だからとは限りません。「別途お見積もり」や「当日の人数が確定してから」という扱いになっていることがよくあります。

仮に、Bで飲み物を1人4,000円(24万円)、装花を18万円で追加したとします。すると、Bの合計は147万円になり、サービス料13%と消費税10%をかけて、税込182.7万円です。差は37.5万円まで縮みます。

つまり、最初に見えた89.7万円の差のうち、52.2万円は前提の違いでした。残りの37.5万円が、料理の単価(Aが1人2,000円高い)や会場使用料の差などから来る、実際の値段の差です。

二人が自分では揃えられない理由

先に言っておくと、二人は見積書を読み違えているわけではありません。二人は結婚式の見積書を読むのが初めてです。項目名の違いから「ここは入っていないかもしれない」と気づくのは難しいです。

しかも、二人には確かめる手段がほとんどありません。Bの式場に「この見積書には飲み物は入っていますか」と聞けば答えは返ってきますが、そう聞くべきだと知っているのは、見積書の中身を知っている側だけです。

だから、条件を揃える作業は、見積書を読み慣れている式場側が引き受けるほうが、二人にとっても助かります。ここで差を揃えて見せることは、自社の見積もりを高く見せないための防御でもあり、二人が後から「聞いていなかった」と感じないための説明でもあります。

注意したいのは、Bの式場を悪く言わないことです。「他社さんは追加が出ますよ」と言うと、二人には悪口に聞こえます。言うのは、事実だけにします。「このお見積もりには、飲み物と装花の項目がありませんでした。同じ条件にそろえて並べてみましょうか」くらいで十分です。

揃えるときに確認する6つ

条件を揃える作業は、次の6つを確かめると形になります。

  • 人数と曜日・時間帯。60名と80名では、1人あたりの単価も会場使用料の考え方も変わります
  • 料理と飲み物の範囲。フリードリンクか、持ち込みか、乾杯の1杯だけか
  • 装花・ケーキ・演出など、見積もりに載っていない項目。「別途」になっているものを洗い出します
  • サービス料の率と、何にかかるか。10%と13%では、同じ合計でも3%分違います
  • 会場使用料、持ち込み料、控室や駐車場の費用など、固定でかかる費用
  • 衣装・写真・引き出物は、見積もりに含まれているか、別契約か

この6つを、二人の目の前で紙1枚に並べます。左に自社、右に二人が持ってきた見積書を置き、同じ行に同じ項目を書きます。空白のところは「確認中」と書き、二人があとで聞ける形にします。

大事なのは、空白を式場の側で埋めないことです。Bの飲み物は、僕の置いた4,000円という数字は仮のものでした。実際の金額は、Bの式場に聞かないと分かりません。式場が推測で書いた数字を二人に渡すと、あとで違っていたときに信用を失います。「分からないところは、確認してみてください」と、二人の手に戻すのが誠実です。

揃えたあとの値引き

条件を揃えると、差は37.5万円に縮みました。ここから先は、値引きをするかどうかの判断です。ただし、この判断は、揃える前とは違うものになります。

揃えたあとの差が小さければ、値引きより、差の理由を説明するほうが効くことがあります。たとえば、料理の単価が2,000円高いなら、その中身(食材や品数、提供の仕方)を説明します。会場使用料の差なら、チャペルの広さや控室の数など、二人が実際に使う設備の違いを話します。

揃えたあとも差が大きく残るなら、それは本当の値段の差です。そこで値引きを考えます。値引きの考え方には、既存の記事で書いたように、成約率がどれだけ上がれば元が取れるか、という見方があります。ここでは、その前の段階に絞って書きます。値引きを出す前に、差の中身を二人の目の前で確かめておくと、引く金額を小さくできることが多い、ということです。

値引きの額は、差の全額に合わせる必要はありません。二人が比べているのは総額だけではなく、会場の雰囲気、プランナーの印象、日程の空き、立地などです。差が37.5万円残っていても、二人の優先順位がそこにないなら、値引きなしで決まることもあります。逆に、優先順位が総額にあるなら、揃えたうえで差を埋める判断になります。

15分の手間の大きさ

条件を揃える作業は、1件あたり15分から20分の手間になります。仮に、年間の来館が600組で、そのうち他の式場の見積書を持ってくる二人が15%だとします。90件です。1件20分とすると、年30時間です。時給換算を2,000円として、年6万円です。

1組あたりの粗利を140万円と置くと、この手間が元を取る条件は、成約が年に0.043組増えることです。言い換えると、23年に1組ぶん成約が増えれば元が取れます。正直、数えるのも馬鹿らしい額です。

持参率が20%(120件)に増えても、年40時間で8万円です。粗利の0.057組分ですから、考え方は変わりません。この作業は、金額で見ると、手間のほうが小さすぎて、損得の議論にならない水準です。

だからこの作業を止める理由は、手間ではなく、「やっても効かない場面がある」ことのほうです。たとえば、二人がすでにBの式場で気持ちを決めていて、見積書を持ってきたのは確認のためだけ、というときです。そういう場面で15分の比較表を広げると、押し売りに見えます。

見極めの手がかりは、二人が見積書を出した言葉です。「ここと迷っています」と言って出したなら、揃える作業が効きます。「一応ほかも見ています」と軽く出したなら、まず自社の魅力を聞いてもらうほうが先です。「安いところがあって」と言ったなら、価格の差を揃えて見せることが、そのまま答えになります。

持ち帰ってもらう1枚

条件を揃えた比較表は、その場で見せるだけでは足りません。持ち帰ってもらう1枚が必要です。二人は、帰り道に両親と話し、翌日に家で見積書を並べ直します。その場にプランナーはいません。

だから、比較表は二人が自分で読み返せる形にします。

  • 式場名は書かず、「A」「B」くらいの表記にする(相手を名指しにすると、その後の関係がぎこちなくなる)
  • 「確認中」の欄に、誰に何を聞けばよいかを一言添える
  • 差が出た理由を、1行で書く(例:Bには飲み物が入っていない)
  • 自社の見積書の中で、削れる項目と、削れない項目を分けて書く

最後の1つは、値引きの代わりになることがあります。二人が総額を気にしているとき、装花を10万円分減らす、料理の品数を1品減らすなど、内容を調整する方法は、値引きと違って式場の粗利を大きく崩しません。

まとめ

  • 他の式場の見積書を持ってきた二人には、値引きの数字より先に「条件を揃える15分」を出す
  • 仮の60名の披露宴では、総額の差89.7万円のうち52.2万円が、飲み物と装花の記載の違いなど前提の差だった
  • 揃えるのは、人数と曜日、料理と飲み物の範囲、別途の項目、サービス料の率、固定費、衣装・写真・引き出物の6つ
  • 相手の式場を悪く言わず、事実だけを並べる。分からない欄は式場が推測で埋めず、「確認中」にして二人の手に戻す
  • 揃えたあとの差が小さければ説明、大きければ値引きか内容の調整を考える
  • 手間は仮の前提で年6万円ほど。粗利の0.043組分で、損得より「効く場面かどうか」で決める
  • 持ち帰ってもらう比較表は1枚にして、式場名を伏せ、差の理由を1行で書く