来館・成約

成約率を1ポイント上げると月90万円。ただし月次の成約率は±11ポイント揺れるので、数字では効果が見えない

接客のやり方を変えたら、翌月の成約率が3ポイント上がった。この数字を見て「効いた」と判断した経験がある式場は多いと思います。

僕はこの判断をあまり信用していません。理由は、効果が小さいからではありません。月に来館する組数が60組前後の式場では、何も変えなくても成約率が上下に10ポイント以上揺れるのが普通だからです。

この記事は、実在の式場の数字ではなく、前提を置いたモデル計算です。問い合わせから成約までを一つの仮の式場に置き換えて、次の3点を計算します。

  • 成約率を1ポイント上げると、粗利がいくら増えるか
  • 単価を上げる施策は、成約率がどこまで下がると赤字になるか
  • 月次の成約率は、偶然だけでどれくらい揺れるか

結論を先に書くと、成約率は1ポイントの価値がとても大きい一方で、月次の数字では1ポイントも3ポイントも見分けられません。だから「効いたかどうか」は、成約率とは別の指標で見るほうがいい、という話です。

計算に使う仮の式場と、その前提

数字はすべて僕が置いた仮定で、どこかの調査や特定の式場の実績ではありません。自社の数字に置き換えて読んでください。

  • 月の問い合わせ(資料請求・フェア予約・来館予約を含む):120件
  • 来館率(問い合わせのうち実際に来館する割合):50%。月の来館は60組
  • 成約率(来館した組のうち契約する割合):30%。月の成約は18組
  • 1組あたりの売上:300万円
  • 粗利率:50%(売上の半分が粗利として残る)
  • 集客コスト:問い合わせ1件あたり1.2万円。月に144万円

この仮定だと、月の売上は5,400万円(18組×300万円)、粗利は2,700万円、集客コストを引いた残りは2,556万円です。人件費や家賃などの固定費はここでは考えず、施策による差だけを見ます。

なお、粗利率50%や集客コスト1.2万円は計算を単純にするための置き方です。式場によって大きく違うので、結論の方向を見てもらうための数字だと考えてください。

4つのレバーを同じ10%動かすと

ファネル(問い合わせ→来館→成約→単価)には、動かせる場所が4つあります。同じ10%ずつ動かしたときに、月の残りがどう変わるかを計算します。

動かすもの 動かし方 月の残りの増加
問い合わせ数 120件→132件 約256万円
来館率 50%→55% 270万円
成約率 30%→33% 270万円
1組の売上 300万→330万円 270万円

来館率、成約率、単価は、どれも掛け算の中の一つの項目なので、10%動かせば売上も10%増えます。増える額は同じです。

問い合わせ数だけが少し小さいのは、問い合わせが増えるぶん集客コストも増えるからです。仮定では約14万円(144万円の10%)が余計にかかります。ここは小さな差ですが、問い合わせ1件あたりのコストが上がっていく局面では、差はもっと開きます。

ここで大事なのは、増える額の大きさそのものではありません。同じ10%でも、動かすのにかかるお金と手間がレバーごとに全然違うことです。

  • 問い合わせ数を10%増やす:媒体費か広告費が要る。原則としてお金で買う
  • 来館率を10%上げる:予約から来館までの連絡や日程の組み方で動く。追加のお金はあまりかからない
  • 成約率を10%上げる:接客の中身の話で、時間と訓練が要る
  • 単価を10%上げる:商品の組み方と見せ方の話。成約率とぶつかりやすい

つまり「どのレバーが一番効くか」という問いは、効果の大きさでは決まりません。「同じ効果を出すのに、いちばん安く動かせるのはどれか」で決まります。

成約率の1ポイントは、月90万円

では、成約率を10%(3ポイント)ではなく、1ポイントだけ動かしたらどうなるか。

成約率が30%から31%になると、月の成約は18組から18.6組に増えます。増えた0.6組×300万円×粗利50%で、粗利は月90万円増えます。年に直すと1,080万円です。

月60組の来館で成約率を1ポイント上げる。これは、全体の接客の質を少し上げるだけで届く範囲の話です。1ポイントが年1,000万円の粗利になるなら、接客の改善に月に数十万円かける理由は十分にあります。

比べてみると、問い合わせ数を5%増やすのに必要なコストの増加は月に約7万円(144万円の5%)で、粗利の増加は月128万円です。単純に見ると、問い合わせを増やすほうが得に見えます。ただ、これは「増えた問い合わせも、今と同じ来館率・成約率で成約する」という前提がついています。実際には、広告で後から増やした問い合わせが、もともといた層と同じ来館率・成約率になるとは限りません。低くなるなら、この前提は甘めです。

単価を上げる施策は、成約率3ポイントで赤字になる

単価を10%上げると、先ほどの表のとおり月270万円の増加です。ただ、単価を上げる施策は、成約率を下げる方向に働きやすいのが普通です。高いと感じた組は、契約を見送るからです。

仮に、単価を300万円から330万円に上げたとき、成約率がどこまで下がるかを計算しました。

単価10%アップ後の成約率 月の残りの増減
30%のまま(下がらない) +270万円
29%(1ポイント低下) +171万円
28%(2ポイント低下) +72万円
27%(3ポイント低下) −27万円

成約率が3ポイント下がった時点で、単価アップの利益は消えて、元より悪くなります。

3ポイントという数字は、一見すると小さく見えます。ところが後で見るとおり、月次の成約率は偶然だけで10ポイント以上動きます。つまり、単価を上げたあとに成約率が3ポイント下がっても、「今月はたまたま少なかった」と読めてしまう。損をしているのに気づかないまま、数か月が過ぎることがあります。

単価を上げる施策を打つなら、上げる前に「成約率が何ポイント下がったら戻すか」を決めておく必要があります。決めていないと、下がった理由を後から説明するだけの検証になります。

月次の成約率は、偶然だけで±11ポイント揺れる

ここからが、この記事の中心です。

来館60組、本当の成約率が30%の式場があるとします。何も変えず、接客もまったく同じでも、月の成約数は毎月同じにはなりません。コインを60回投げて表が出る回数がぶれるのと同じです。

成約するかしないかを、確率30%の独立した試行として計算します(二項分布)。標準偏差は、√(0.3×0.7÷60)=約5.9ポイントです。95%の範囲に収まる幅は、おおよそ「平均±2標準偏差」なので、約±11.6ポイントになります。

つまり、本当の成約率が30%でも、月次の成約率は18.4%から41.6%の間のどこかに出るのが普通です。成約組数でいえば、11組から25組の間のどこかです。

この計算が示すことを、いくつか書きます。

  • 成約率が34%に上がった月があっても、施策の効果とは言えない。偶然の範囲に入っている
  • 成約率が26%に落ちた月があっても、施策が悪かったとは言えない。同じく偶然の範囲に入っている
  • 「3ポイント上がった」は、ほとんどの場合、何も言っていない

前提は一つあります。この計算は、来館する組がみな同じ確率で契約する、という単純な仮定です。実際には、来館する組の質(予算、決定権者の同席、他社との比較の段階)は月ごとにばらつくので、実際の揺れはこれより大きくなります。この計算は、揺れの最小値だと考えてください。

1ポイントの差を見分けるには、何か月分の数字が要るか

では、成約率の1ポイントの差を数字で見分けるには、どれだけ来館数が要るでしょうか。

同じ二項分布の考え方で、95%の信頼区間の幅を±1ポイントまで狭めるには、約8,067組の来館が必要です(0.3×0.7×1.96²÷0.01²)。月60組なら約134か月、11年以上かかります。

±2ポイントまで許容しても、約2,017組で、月60組なら約34か月です。±5ポイントでも約323組で、5.4か月が必要です。

6か月分(360組)をまとめて見ても、95%の幅は±4.7ポイントあります。前の6か月と比べて成約率が3ポイント上がったとしても、まだ偶然の範囲に収まります。

要するに、成約率は「大きく動いた」ときにしか読めない指標です。1ポイントで年1,080万円の価値があるのに、その1ポイントは、数字では何年待っても確かめられません。

この食い違いが、現場の施策判断をいちばん難しくしています。価値は大きいのに、効いたかどうかが数字で言えない。だから、勘と声の大きい人の意見で決まりやすくなります。

成約率の代わりに見る指標

月次の成約率で判定できないなら、何を見ればいいか。僕は、成約より手前の「行動」の指標を見るのがいいと考えています。

成約率は、接客の結果が積み上がった最後の数字です。ばらつきの原因が、全部そこに集まっています。これに対して、接客の中の行動は、一組ごとに「やったか、やらなかったか」を数えられます。

たとえば、次のようなものです。

  • 初回の来館で、見積もりの概算を提示した組の割合
  • 来館の最後に、次回の予約を取れた組の割合
  • 決定権者(親や二人以外の費用負担者)が来館に同席した組の割合
  • 来館の当日中に、お礼の連絡を送れた組の割合

これらは成約を待たなくても、毎週数えられます。しかも「やったか、やらなかったか」の割合は、成約よりずっと高い確率で出てくるので、数字の揺れが小さくなります。

行動の割合にも偶然の揺れはあります。ただ、これらは「担当者が決めれば、その日から変えられる行動」を数えています。変えた前後で割合が動いたかを、組単位で確かめられるのが強みです。

ここで気をつけたいのは、行動の指標が成約につながっていると確かめられているわけではない点です。次回予約を取れた組は成約しやすい、という関係は、式場ごとに過去の記録から確かめる必要があります。確かめる方法は単純で、過去1〜2年の来館記録を、次回予約の有無で分けて、それぞれの成約率を比べることです。差が大きければ、次回予約率は成約の手前の指標として使えます。差が小さければ、その行動は成約の決め手になっていないので、見る指標から外します。

施策を打つ前に、決めておく3つのこと

最後に、施策を打つ前に決めておくと、判断がぶれにくい3つを書きます。

  1. 見る指標を、成約率ではなく行動の割合にする。 「次回予約の取得率を、今の40%から50%にする」のように、数えられる目標にします
  2. 何か月見るかを決める。 成約率で効果を見るなら、最低でも6か月は同じやり方で続ける。それでも、見えるのは数ポイントではなく、大きな差だけだと割り切る
  3. 戻す条件を決める。 単価アップの施策では特に、成約率が何ポイント下がったら元に戻すかを、始める前に書き出しておく。月次の数字で戻すか決めるのではなく、半年分の累計で決める

この3つはどれも、数字を増やす話ではありません。数字の読み方に、最初から揺れの幅を織り込んでおく話です。

月次の成約率が前月より3ポイント上がった、下がった、という会議は、多くの式場で毎月開かれていると思います。その3ポイントが、偶然の範囲に入っていることを一度計算しておくと、会議の中身が変わります。同じ時間を、行動の指標を見ることに使えるようになるからです。

まとめ

  • 仮の式場(問い合わせ120件、来館60組、成約18組、売上300万円、粗利率50%)では、成約率1ポイントの価値は月90万円の粗利、年に約1,080万円になる
  • 来館率・成約率・単価は同じ10%動かせば効果は同額。違いは、動かすのに要るお金と手間と、ほかの指標とぶつかるかどうか
  • 単価を10%上げる施策は、成約率が3ポイント下がった時点で赤字になる。始める前に戻す条件を決めておく
  • 来館60組の式場では、本当の成約率が30%のままでも、月次の成約率は偶然だけで約±11.6ポイント揺れる
  • 成約率の差を±1ポイントまで確かめるには約8,000組の来館が要り、月60組なら約134か月かかる。成約率は大きく動いたときにしか読めない
  • 施策の効果は、次回予約の取得率や見積もり提示率のような行動の割合で見る。成約率との関係は、式場の過去の来館記録で確かめる
  • 1ポイントの価値が大きいことと、その1ポイントを数字で確かめられないことは、両方が本当