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資料請求を紙の郵送から「PDFをメールで即送る」に替えると、仮の式場では郵送費が年54万円浮く。ただ、請求が年240件増えても、来館率が17.9%を下回ると損になる

「資料請求は、紙のパンフレットを郵送する」という式場は、まだ多いと思います。印刷代と送料がかかります。発送の手間もあります。そこで「PDFをメールで即送れば、安くて早いのでは」という話が出ます。

ただ、この話を郵送費の安さだけで決めると、判断を誤ります。郵送費は、思ったより小さい数字だからです。本当に効いてくるのは、住所をもらうことで請求が減るのか、紙を受け取った人のほうが来館するのか、という2つです。

結論から書きます。仮に、公式サイトの資料請求ページに年2,400人が到達し、住所を必須にすると25%の600人が請求を完了し、メールだけにすると35%の840人が完了するとします。紙の郵送費が1件900円なら、年54万円です。PDFにすれば、この54万円は浮き、請求は年240件増えます。ただし、紙の請求者の来館率が25%、成約率が30%、粗利が140万円だとすると、PDFの請求者の来館率が17.9%を下回った時点で、紙のほうが得になります。分かれ目は郵送費ではなく、来館率の差です。

この記事の数字は、出典のある統計ではありません。請求の件数も、完了率も、来館率も、会場ごとに大きく違うからです。僕が置いた前提を先に並べて、自社の数字に替えれば答えが出る形で書きます。

前提を先に置きます

次の前提は、すべて仮置きです。実在の会場の実績ではありません。

  • 資料請求ページへの年間の到達は2,400人
  • 住所を必須にした場合の請求完了率は25%(年600件)
  • メールだけにした場合の請求完了率は35%(年840件)
  • 紙の請求者のうち、来館する割合は25%
  • 来館した人の成約率は30%
  • 1組あたりの粗利は140万円
  • 紙の郵送は、1件あたり印刷代と送料で900円

粗利140万円は、このメディアの計算でこれまで使ってきた置き方に揃えています。完了率が10ポイント開くという置き方は、入力項目が増えると完了率が落ちる、という一般的な向きを借りたものです。開きの大きさに根拠はありません。

郵送費は、年54万円にしかならない

まず、紙の郵送にいくらかかっているかを出します。

  • 年600件 × 900円 = 年54万円

粗利140万円の成約に直すと、0.39組分です。紙の請求者から年に1組成約が生まれれば、この費用は回収できます。

つまり、郵送費そのものは、削って得をする規模の数字ではありません。「紙は高いから、PDFにしよう」という理由は、金額の面では弱い、ということです。ほかの費用が加わる場合は別です。たとえば、発送の作業に人手がかかっていて、その人件費が年200万円を超えるようなら話が変わります。ただ、その場合も、人件費の分は、発送を外部に頼む、まとめて週1回だけ送る、といった別の手で下げられます。

紙とPDFで、年間の来館を比べる

次に、請求者の数と来館率を並べて、年間の来館数を比べます。

  • 紙(住所必須):請求600件 × 来館率25% = 来館150組
  • PDF(メールだけ):請求840件 × 来館率15% = 来館126組

PDFの請求者の来館率を15%と置くと、請求が年240件増えても、来館は24組少なくなります。成約率30%、粗利140万円なら、成約は7.2組、粗利にして年1,008万円の差です。紙の郵送費54万円と比べると、18倍の開きがあります。

PDFの請求者の来館率が15%になる理由は、僕の想像です。住所を書かない人は、検討の温度が低めで、気軽に資料だけ見たい人が混じるからです。ただ、この想像が当たっているかは分かりません。メールだけでも、住所を書く人と同じ熱量で来てくれる会場もあるはずです。

来館率がいくつなら、同じになるか

では、PDFの請求者の来館率がいくつなら、紙と同じ来館数になるのでしょうか。

  • 紙の来館150組を、PDFの請求840件で出すには、150 ÷ 840 = 17.9%

PDFの請求者の来館率が17.9%を上回れば、PDFのほうが来館は多くなります。下回れば、紙のほうが多くなります。ここに、郵送費の54万円を足して考えます。来館率が17.9%を少し下回る程度でも、1ポイントぶんで来館が8組ほど減るので、郵送費の差はすぐ飲み込まれます。

表にすると、次のようになります。

  • PDFの来館率10%:来館84組、紙との差は−66組、粗利で年−2,772万円
  • PDFの来館率12%:来館101組、紙との差は−49組、粗利で年−2,058万円
  • PDFの来館率15%:来館126組、紙との差は−24組、粗利で年−1,008万円
  • PDFの来館率17.9%:来館150組、紙との差は0組
  • PDFの来館率20%:来館168組、紙との差は+18組、粗利で年+756万円

粗利の列は、来館の差に成約率30%と粗利140万円を掛けたもので、郵送費の54万円は含めていません。含めても、54万円だけ変わる程度です。PDFの来館率が20%なら、来館は18組増えます。逆に、10%なら66組減ります。ここまで開く可能性があるのに、郵送費の54万円だけを見て決めるのは、かなり危ない判断です。

請求の「質」は、住所で変わるのか

住所を必須にすると、請求の質は上がるのでしょうか。この問いには、答えが分かれる2つの見方があります。

1つ目は、住所を書く人のほうが、検討が進んでいるという見方です。住所は、メールアドレスより個人情報としての重さがあります。それを書いてまで資料が欲しい人は、本気で探していると考えられます。2つ目は、住所の入力が面倒で、本気の人まで離れてしまうという見方です。スマートフォンで郵便番号と住所と建物名を入れるのは、手間です。

どちらが当たっているかは、会場の客層で変わると思います。結婚式場を探す二人は、複数の会場に資料を請求します。いま一番候補に近い会場から書き始めて、最後の会場には手が回らなくなる。そのとき、入力が軽い会場は、残りやすい。住所必須が不利になる場面は、ここだと思います。

住所を持つ価値は、あとから出てくる

見落としやすいのが、住所そのものの価値です。メールは、迷惑メールに入ったり、アドレスが変わったりして届かなくなります。住所は、届く可能性が高い連絡先です。

住所を持っていれば、あとから次のことができます。

  • 見学に来なかった請求者に、フェアの案内をはがきで送る
  • 資料請求から数か月たった人に、新しいプランの案内を送る
  • 来館の予約が入った人に、事前に会場の案内を送る

ただ、これらは追加の費用がかかります。はがき1枚が仮に100円、年600件に1回ずつ送れば年6万円です。効果は、来館率が1ポイント上がれば、請求600件のうち6組、成約1.8組分です。粗利に直すと、年252万円です。住所を持っていることの価値は、こうした「もう一度連絡する手段」を使うかどうかで決まります。使わない会場にとっては、住所は郵送費をかけるだけの情報になります。

紙の効果は、受け取ってからの時間にある

もう一つ、紙とPDFの違いがあります。受け取ったあとの「残り方」です。

PDFは、メールに埋もれます。開いて閉じたら、それきりのことが多いと思います。紙は、机の上や、親が見える場所に置かれます。結婚式の準備は、二人だけで決めるわけではありません。親や家族と相談します。そのとき、手に取れる紙のパンフレットがあるかどうかは、話の進み方を変えると思います。

この点は、数字で示せないので、僕の推測です。ただ、見学に同席しない家族に何を渡すかは、別の記事で書いたとおり、成約に響く論点です。PDFで十分な会場もあれば、紙が効く会場もあります。

折衷案:最初はPDF、希望者だけ紙を郵送

2つの間に、折衷案があります。請求の画面ではメールだけを入力してもらい、PDFをすぐに送ります。そのうえで、「紙のパンフレットも希望の方は、住所を入力してください」という選択を、あとから出す形です。

この形の利点は、請求の完了率を落とさずに、紙を望む人の住所だけ集められることです。たとえば、PDFの請求840件のうち、紙も希望する人が3割の252件だとします。郵送費は252件 × 900円 = 年22.7万円で、全員に送る場合の54万円より安くなります。住所をくれた人は、紙を望む温度の高い人です。

懸念もあります。住所を2回聞くので、2回目の画面で離れる人が出ます。1回目で終わった人には、住所が残りません。折衷案は、完了率の高さと住所の価値を両取りできる可能性があると思いますが、実際にそうなるかは、やってみないと分かりません。

自社の数字で計算する手順

自社の数字に替えるときは、次の順で進めます。

  1. 資料請求ページへの年間到達と、請求の完了件数を、アクセス解析と請求の記録から出す
  2. 請求者のうち、来館した人の割合(来館率)を、請求の記録と予約の記録を突き合わせて出す
  3. 紙の郵送費(印刷代、送料、発送の人件費)を、1件あたりで出す
  4. PDFにした場合の請求件数を、住所なしの完了率の想定で置く(確信が持てなければ、増える幅を0件、120件、240件の3通りで置く)
  5. PDFの請求者の来館率の分かれ目を、紙の来館数 ÷ PDFの請求件数で出す
  6. 分かれ目と、請求者の温度(高いか低いか)の想像を比べる

ステップ2は、請求の記録に来館の紐づけが無い会場がほとんどだと思います。紐づけが無ければ、まず1か月分を手作業でつけてみてください。メールアドレスと名前で、請求者と予約者を突き合わせるだけで足ります。紙とPDFを切り替える前に、この来館率を知っておくことが、いちばん安全な準備です。

切り替えを試す安全な順序

切り替えに踏み切る前に、試す手があります。同じ期間に、半分の請求者にだけ別の方式を見せる比較です。たとえば、偶数日はPDFだけ、奇数日は紙の郵送、と日替わりで切り替えます。

比べる数は、各方式で最低でも100件は欲しいところです。年600件の請求なら、半年で300件、半分ずつで150件になります。来館率は数週間遅れて出るため、結果が出るまで半年以上かかります。その間は、どちらの方式でも請求は受けつけておき、判断を急がないことです。

日替わりで比べるときの注意があります。連休や、フェアの告知がある日は、請求の質が変わります。偶数日と奇数日に偏りが出ないよう、期間を長めにとる必要があります。

まとめ

  • 紙の郵送費は、1件900円・年600件の仮置きで年54万円。成約0.39組分で、削って得をする規模ではない
  • PDFにして請求が年240件増えても、PDFの請求者の来館率が17.9%を下回ると、紙のほうが来館が多い(来館率25%・成約率30%・粗利140万円の仮置き)
  • 判断の軸は郵送費ではなく、住所を聞くことで請求が減る割合と、請求者の来館率の差
  • 住所は「もう一度連絡する手段」として使うなら価値がある。使わないなら、郵送費をかける情報にとどまる
  • 折衷案として、最初はPDFを即送り、紙は希望者だけ住所をもらって郵送する形がある。仮の式場では郵送費が年22.7万円まで下がるが、2回目の画面で離れる人が出る
  • 切り替える前に、日替わりの比較で、請求者の来館率を方式ごとに測るのが安全