宴会場を間仕切りで2室に分ける投資は、仮の式場で年180万円。繁忙日に断っている組が年20組あれば、年5〜11組は取り戻せて元が取れる
少人数の披露宴が増えると、会場には「広すぎる部屋」が残ります。120人が座れる宴会場で、実際に来るのは50人前後。この空間をそのまま使い続けるのか、可動間仕切りで2つに分けて、同じ時間帯に2組を迎えるのか。設備の投資としては、わりと現実的な選択肢です。
結論から書きます。仮に、投資1,500万円で宴会場を60人×2室に分けられるとすると、年の負担は180万円です。分けたことで増える1組あたりの粗利が120万円なら、取り戻すべきは年1.5組。繁忙の土日に「その日に決めたい」二人が平均1.2組いる会場なら、いま断っている組は年20組で、そのうち分けることで受けられるのは年8組前後です。計算上は、元が取れます。分かれ目は、少人数の二人がどれだけいるかと、同時に2組を回せる人員がいるかです。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。会場の広さも、改装費も、繁忙日の需要も、会場ごとにまったく違うからです。僕が置いた前提を先に並べて、どこを自分の数字に替えれば答えが出るかが分かるように書きます。
前提を先に置きます
計算に使う前提は、次のとおりです。すべて仮置きで、実在の会場の実績ではありません。
- 宴会場は1室で、着席120人まで。いま使っているのは、1日1組の貸切
- 披露宴の人数は、60人以下の組が全体の7割、61人以上の組が3割
- 繁忙日(土日祝の人気の日取り)は年40日。その日に「挙げたい」と希望する二人の数は、日によってばらつく。平均は1.2組
- 間仕切りの工事は1,500万円で、10年かけて償却する。年の維持費(可動壁の点検など)が30万円。合わせて年180万円
- 2室に分けて同時に2組を迎えるときは、人員と準備の費用が増える。それを引いた、増える1組あたりの粗利は120万円(1組140万円の粗利から、追加の人件費など20万円を引いた置き方)
粗利140万円は、これまでこのメディアの計算で使ってきた置き方に揃えています。違う会場なら、ここを自社の数字に替えてください。
「繁忙日の希望が平均1.2組」というのは、少しわかりにくい置き方なので言い換えます。繁忙日が40日あって、希望する二人が1日に平均1.2組いるという意味です。0組の日もあれば、3組の日もあります。計算では、この「日ごとのばらつき」を、ポアソン分布(めったに起きないことの回数を表す、ごく一般的な確率の式)で置きました。
いまの会場は、年20組を断っている
まず、間仕切りがない状態から見ます。1日に1組しか受けられないので、その日に2組以上が希望すれば、2組目からは断ることになります。
希望が平均1.2組の繁忙日を40日ならべると、少なくとも1組が希望する日は全体の7割です。1組受けると、断る組の期待値は1日あたり0.5組。40日で、年20組を断っている計算になります。
希望の平均を替えると、こう変わります。
- 平均0.8組の会場:断る組は年10組
- 平均1.2組の会場:断る組は年20組
- 平均1.6組の会場:断る組は年32組
- 平均2.0組の会場:断る組は年45組
「断っている」と書きましたが、実際には「他の日を提案する」「別の会場を勧める」ことになるので、すべてが失われるわけではありません。ただ、人気の日取りに希望が集まる二人は、日を替えると他の会場に流れることが多い、というのが僕の想像です。この「流れる割合」は、自社の記録でしか測れません。
間仕切りで取り戻せるのは、断った組のうち一部だけ
次に、間仕切りで2室に分けたときです。2室とも60人までなので、受けられるのは「60人以下の組が2組」揃った日だけです。希望が2組あっても、片方が80人なら、その日は80人の組が1室を使い、もう1室は使えません。
少人数の組の割合(60人以下の組が全体に占める割合)を替えて計算すると、増える組数は次のとおりです。繁忙日40日の合計です。
少人数の割合が5割の会場:
- 平均0.8組:年2.5組増える
- 平均1.2組:年4.9組増える
- 平均1.6組:年7.6組増える
少人数の割合が7割の会場:
- 平均0.8組:年4.4組増える
- 平均1.2組:年8.2組増える
- 平均1.6組:年12.3組増える
少人数の割合が8.5割の会場:
- 平均0.8組:年6.0組増える
- 平均1.2組:年10.9組増える
- 平均1.6組:年15.8組増える
つまり、断っている組が年20組でも、間仕切りで受けられるのは年5〜11組です。残りは、大人数の組や、同じ日に3組以上が希望したぶんで、間仕切りでは救えません。
この表の読み方で、いちばん大事な点は1つです。間仕切りが効くのは、「希望が重なる日があって、かつ少人数の組が多い」会場に限られます。希望が重ならない会場は、そもそも2室に分ける理由がありません。少人数の組が少ない会場は、分けても1室で足りてしまいます。
年180万円は、年1.5組で取り戻せる
投資の側を見ます。1,500万円を10年で償却すると、年150万円。維持費30万円を足して、年180万円です。
1組増えるごとの粗利は120万円。180万円を120万円で割ると、取り戻すべきは年1.5組です。
表のなかでいちばん低い、少人数の割合が5割で平均0.8組の会場でも、増える組は年2.5組。この条件でも、元は取れます。投資が小さいうちは、ほとんどの条件で成り立つ、というのが数字の見え方です。
では、投資が大きくなるとどうか。3,000万円の工事(空調と音響の分離を含む)で、維持費が年60万円だとします。年の負担は360万円。人員の増えるぶんが重く、増える1組あたりの粗利が100万円まで下がるなら、取り戻すべきは年3.6組です。さらに、粗利が80万円なら年4.5組。
- 投資1,500万円、粗利120万円:年1.5組
- 投資3,000万円、粗利100万円:年3.6組
- 投資3,000万円、粗利80万円:年4.5組
これを先ほどの増える組数と照らします。少人数の割合が5割で平均0.8組の会場(年2.5組)は、3,000万円の工事では元が取れません。一方、少人数の割合が7割で平均1.2組の会場(年8.2組)なら、どの組み合わせでも元が取れます。
計算に入らない費用が、いちばん効く
ここまでの計算は、すべて「同時に2組を回せる」という前提の上にあります。実際には、いくつかの壁があります。
- 人員:同じ時間帯に2組の挙式・披露宴を回すには、プランナー、サービス、キッチンが2倍近く要ります。いまの人員で回せる日は何日か。回せない日は、間仕切りがあっても使えません
- 音:可動壁は、完全な防音ではありません。片方の室でスピーチや余興が盛り上がれば、もう片方に聞こえます。静かな挙式や、しんみりした両親への手紙の時間と重なるのは、二人にとっては大きなことです
- 動線:2組のゲストが、受付、化粧室、ロビーで重なります。新婦の入場前に別の組のゲストと出会うのは避けたい
- 見積もり:同じ日に2組いることを、二人にどう説明するか。「貸切」を売りにしている会場なら、その売りを自分で崩すことになります
この4つは、金額に直しにくいのが厄介です。僕は、計算の結果が「ぎりぎり元が取れる」なら、やらないほうがいいと考えます。逆に、年8組以上の増加が見込めて、年1.5〜3.6組の損益分岐の2倍以上あるなら、これらの壁を越える手を考える価値があります。
投資の前に、先にやれる3つのこと
間仕切りは、元に戻しにくい投資です。その前に、費用が小さく、数字が取れることがあります。
- 断った組を記録する:繁忙日に「日取りが合わず見送りになった組」と、その人数を、1か月ごとに集計します。年20組と思っていたら、実際は6組だった、ということもありえます。逆に、40組だったという会場もあるはずです
- 少人数の割合を出す:直近の1年に挙げた組の人数を並べて、60人以下の割合を出します。これは、いまの会場の記録だけで出せます
- 別の部屋で試す:宴会場を分けず、別のレストランやガーデンを60人以下の組に貸し出す形で、同時に2組を回せるか試します。人員の壁が見えます
この3つで、「希望が重なる日があるか」「少人数の組が多いか」「人員は足りるか」の3つが確かめられます。確かめた結果が全部そろうなら、工事の見積もりを取る段階です。
少人数に合わせた会場の形は、投資だけの話ではない
ここまで、間仕切りを「投資」として計算しました。ただ、少人数の披露宴が増えているとして、その二人にとって120人用の宴会場が広すぎるのは、金額の問題とは別の問題でもあります。
50人のゲストが、120人用の広い部屋に座ると、テーブルの間隔は広くなり、会場の端が遠くなります。僕は、これが二人の「寂しい」という印象につながる可能性があると想像します。ただ、これは仮説で、数字では確かめていません。見学のときに「広すぎる」という声が出ているかどうかを、接客の記録で拾えば、投資の理由が1つ増えます。
装花や照明、演出で空間を小さく見せる方法もあります。ただ、これらは1組ごとに追加の費用が出ます。間仕切りは、一度つくれば毎回の費用が増えません。この点は、間仕切りの強みです。
間仕切りが向かない会場
間仕切りの計算が成り立たない会場もあります。
- 繁忙日でも、希望が1組に届かない日が多い会場。分ける理由がない
- 大人数の組が中心の会場。そもそも60人以下の組が少ない
- 人員が足りず、同時に2組を回せない会場。改装しても使えない
- 「貸切の特別感」を売りにしている会場。同じ日に2組いること自体が価値を下げる
どれかに当てはまるなら、間仕切りの工事より、別の手を先に考えたほうがいいと思います。たとえば、昼と夜の2部制にして時間でずらす方法です。これは別の損益になるので、ここでは触れません。
まとめ
- 宴会場を可動間仕切りで60人×2室に分けると、仮置きで投資1,500万円・年180万円。増える1組あたりの粗利が120万円なら、取り戻すべきは年1.5組
- 繁忙日40日に平均1.2組が希望する会場は、いま年20組を断っている計算。間仕切りで受けられるのは、少人数の割合が7割なら年8.2組
- 投資が3,000万円で粗利が下がると、取り戻すべき組は年3.6〜4.5組。少人数の割合が低く希望も少ない会場は、元が取れない
- 計算に入らない壁(人員・音・動線・貸切の売り)が、実際の可否を決める。ぎりぎり元が取れる程度なら、やらないほうがいい
- 投資の前に、断った組の記録、60人以下の組の割合、別の部屋での同時進行の試行、の3つを確かめる
- 会場の形を少人数に合わせるかどうかは、客層の変化に対する経営判断で、数字は仮置きなので、自社の記録に替えて読む
