式場見学の冒頭で予算を聞くか|答えが変わる聞き方の順番
見学に来た二人に、いつ予算を聞くか。これは接客の現場で、意見が割れやすい問いです。「最初に聞かないと提案が組めない」という人もいれば、「冒頭で聞くと警戒されるから、最後まで聞かない」という人もいます。
僕の考えを先に書きます。予算は聞いたほうがいい。ただし「ご予算はおいくらですか」という聞き方を、冒頭に置かないほうがいいと思っています。聞く順番を変えるだけで、二人の答え方は変わります。この記事では、聞く理由と聞かない理由を整理し、聞き方の型を3つに分けて、仮の数字でズレの影響を確かめます。数字はすべて前提を置いた計算で、特定の式場の実績ではありません。
聞かないと、何が起きるか
予算を聞かずに見積もりを出すと、二つのズレが起きやすくなります。
1つ目は、見積もりが二人の想定を大きく超えることです。仮に、二人が頭の中で想定している総額が300万円、式場が最初に出した見積もりが360万円だったとします。差は60万円、想定に対して20%の上振れです。
二人は、その場で「高い」とは言わないことが多いです。「持ち帰って考えます」と言って帰り、そのまま戻ってこない。式場の側から見ると、理由が分からない失注になります。
2つ目は、提案の幅が狭くなることです。予算が分からないと、担当者は中間くらいのプランを出します。二人の想定がもっと低ければ上の理由で離れますし、もっと高ければ、本当は選べたはずの上位のプランや演出が提案されないまま終わります。
つまり、聞かないことのコストは、上振れで離れる組と、提案が届かなかった組の両方に出ます。どちらも数字に残りにくいのが厄介なところです。
冒頭で聞くと、何が起きるか
一方で、冒頭で直接聞く運用にも弱点があります。
- 値踏みされていると感じる。二人は「いくらまで出せる人かを探られている」と受け取りやすい
- 低めに答えられる。上限を先に言ってしまうと、そこまで使わされる気がして、あえて低く答える人がいる
- 本人たちも分かっていない。式場探しの初期は、相場を知らないまま来ている二人が多く、答えようがない
特に3つ目は見落とされがちです。予算を聞かれて「決まっていません」と答える二人は、隠しているのではなく、本当に決まっていないことがあります。そこで「目安でも」と重ねて聞くと、答えられない自分を責められた気持ちになります。
予算を聞く目的を、言い換える
整理すると、聞く目的は「二人の財布を知ること」ではなく「提案を二人に合わせること」です。目的がそちらなら、金額そのものを直接聞く以外にも、手段はあります。
僕は、聞き方を次の3つの型に分けて考えています。
型1:金額を直接聞く
「ご予算の目安はありますか」と聞く、いちばんシンプルな型です。向いているのは次のようなときです。
- 二人がすでに複数の式場を見ていて、予算が固まっていそうなとき
- 親の援助や貯蓄の額を、二人が共有していそうなとき
- 相談の形が、見積もり依頼に近いとき
弱点は先ほどのとおりで、初回の見学で使うと身構えられやすい型です。
型2:範囲を見せて、位置を選んでもらう
「この会場でお式をされる方は、総額で〇〇万円から〇〇万円の間に収まることが多いです。お二人はそのどのあたりを考えていますか」と聞く型です。
範囲は、その式場の実際の契約実績から出します。出典のない他社の相場や、業界全体の平均を持ち出さないことが大事です。自社の実績の範囲なら、事実として言えますし、確認していない数字を作ることにもなりません。
この型の利点は、二人が「答えやすい」ことです。ゼロから金額を言うのは難しくても、範囲の中から位置を選ぶのは簡単です。「真ん中より少し下くらいで」と言われれば、提案の中心が決まります。
弱点は、範囲の上端が二人に基準として刷り込まれることです。上端を高く見せすぎないよう、範囲は中央値に近い幅で示します。
型3:お金をかけたいところから入る
金額の代わりに、優先順位を聞く型です。「結婚式で、いちばん大切にしたいのはどんなことですか」「これだけは削りたくない、というところはありますか」と聞きます。
料理、衣裳、写真、ゲストの人数、演出、日取り。優先順位が分かれば、お金をかける場所と削る場所が見えてきます。そのうえで、最後に「ここまでの内容だと、総額はこのくらいになります。感覚としていかがですか」と、確認の形で金額を出します。
この型は、聞くというより、二人と一緒に決める運びになります。予算の質問に警戒する二人にも使いやすい型です。弱点は、時間がかかることです。見学の所要時間に余裕がないと、尻切れになります。
型の選び方:3つの条件で決める
どの型を使うかは、次の3つの条件で決めるのが現実的だと思います。
- 二人の検討の段階:式場探しの初期なら型3、複数の式場を見て絞り込む段階なら型1か型2
- 見学の所要時間:時間に余裕がなければ型2、余裕があれば型3
- 紹介経路:資料請求や問い合わせで見積もり依頼に近い形で来た二人なら、型1も使える
担当者の裁量で型を使い分けるときは、判断の基準を共有しておくと、組ごとの対応のばらつきが減ります。
聞く順番を変えるだけで、答えが変わる
型の選び方とは別に、聞く順番も効きます。僕がよい流れだと思うのは、次の順です。
- 人数(招待したい人の見込み)
- やりたいこと、大切にしたいこと
- 日取りの希望
- ここまでを踏まえた総額感の確認
人数と大切にしたいことを先に聞くと、金額の質問が自然な流れの中に入ります。二人も「内容を決めるために必要な質問だ」と受け取れます。冒頭に唐突に金額を聞くのと、内容を聞いたあとで確認するのとでは、同じ質問でも印象が変わります。
二人の間のズレも、予算の話に出てくる
予算を聞く場面では、二人の間の認識のズレが見えることがあります。片方が「300万円くらい」と言い、もう片方が黙っている。あるいは親の援助の額を、片方しか知らない。
こういうとき、担当者が金額を確定させようとすると、どちらかが無理をした答えになります。ズレが見えたら、金額を詰めずに「お二人でまだ話し合っていないところですね。見積もりは目安として出しますので、持ち帰って相談してください」と、ズレを持ち帰ってもらうほうが安全です。持ち帰ったあとの二人の意見が割れたときの受け方は、別の記事でも整理しているので、あわせて見てください。
仮の数字で、聞く順番の差を確かめる
ここでも前提を置いた計算です。月に見学へ来る組が40組、そのうち「想定より見積もりが2割以上高く出て、理由が分からないまま離れる」組が、聞かない運用では仮に5組あったとします。聞き方を整えて、その5組が3組に減ったとします。
減った2組が、のちに契約へ進む割合を仮に3割とすると、月あたり0.6組です。1組の粗利を総額360万円の3割、約108万円とすると、月あたり約65万円の差になります。
この計算の言いたいことは、数字そのものではなく、効く場所です。予算の聞き方は、広告費や設備と違って追加の費用がかかりません。変えるのは質問の順番と言葉だけです。そして効果は、「離れた理由が分からない組」の一部に出ます。逆に言えば、離脱の理由が見えていない会場ほど、この聞き方を見直す余地があります。
現場で使える言い回しの例
型ごとに、そのまま使える言い回しを置いておきます。
- 型1:「お式の総額について、いまお考えの目安はありますか。まだでしたら、ないとお答えいただいて大丈夫です」。最後の一文で、答えられない二人の逃げ道を作ります
- 型2:「ここで挙げられる方は、総額で〇〇万円から〇〇万円の間が多いです。お二人はどのあたりを想像されていましたか」
- 型3:「お二人にとって、結婚式でいちばん大切なことを教えてもらえますか。そこにお金をかける形で、全体を組んでみます」
どの型でも共通するのは、答えなくてもよい余地を残すことです。答えを迫られていない二人のほうが、結果として本音に近い答えを出してくれます。
聞いた予算の、使い方に気をつける
聞いた予算を、見積もりにどう反映するかも大事です。
- 予算の上限ぴったりの見積もりは出さない。余裕を残した金額から始め、オプションの追加で上げていける形にする
- 予算を超える見積もりを出すときは、超える理由を項目で説明する
- 予算を下回る見積もりが出たときも、「この内容でこの金額です」と、内容を添える
二人が低めに答えている場合は、予算より少し上の見積もりを出しても、不自然ではありません。一方で、上限ぴったりに揃えると、二人は「予算を見抜かれた」と感じます。ここを丁寧に扱うことが、聞いたことの信頼につながります。
聞いた予算は、記録して引き継ぐ
聞いた内容は、担当者の頭の中に置かず、記録に残します。二人の発言は、次の接触で二度聞かれないようにするための材料です。
- 聞いた金額と、その聞き方(型1〜3のどれか)
- 優先順位(上位2つ程度)
- 二人の間でズレが見えたかどうか
同じことを二度聞かれると、二人は「ちゃんと聞いてもらえていない」と感じます。記録は、成約後の打ち合わせにも引き継げます。
まとめ
- 予算は聞いたほうがいい。聞く目的は、財布を知ることではなく、提案を二人に合わせること
- 聞かないと、見積もりの上振れによる離脱と、上位プランが届かない機会損失の両方が起きる。どちらも数字に残りにくい
- 聞き方は3つの型:金額を直接聞く/自社実績の範囲から位置を選んでもらう/優先順位から入って最後に総額感を確認する
- 型は、二人の検討段階・見学の所要時間・紹介経路で選ぶ。初期の見学は優先順位から入る型3が使いやすい
- 聞く順番は、人数→大切にしたいこと→日取り→総額感の確認。冒頭に金額を唐突に置かない
- 二人の間でズレが見えたら、金額を確定させず持ち帰ってもらう。聞いた予算の上限ぴったりの見積もりは出さない
- 聞いた内容と聞き方は記録して、二度聞かない
