結婚記念日のディナー案内は、仮の式場なら5年分送っても年5万円の黒字。粗利が3割なら赤字になる。損益を決めるのは対象の広さより、運用の時間だ
式を挙げた二人に、結婚記念日の近くになったらディナーを案内する。多くの会場が一度は考えて、そのまま止まっている施策です。止まる理由は「手間がかかりそう」と「いつまで続けるのか分からない」の2つだと思っています。
先に結論を書きます。仮の式場で、記念日ディナーの案内を過去5年分の卒花の二人に送ると、年間の黒字は約4.6万円です。粗利が4割の前提です。粗利が3割なら年1.4万円の赤字、5割なら10.5万円の黒字。どれも年間の売上規模から見れば誤差で、この施策は「やれば儲かる」ものではありません。
それでも考える価値があるのは、損益を動かす変数がはっきりしているからです。広く送るほど得、ではありません。対象を2年目までに絞ると、案内の通数は半分以下になり、黒字は約4.8万円と、ほぼ変わりません。決めるのは対象の広さではなく、案内を回す人の時間と、ディナーの粗利のほうでした。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。記念日のディナーに申し込む割合も、ディナーの値段も、会場ごとにまったく違います。僕が置いた前提を先に並べるので、自分の会場の数字に替えて使ってください。
置いた前提
仮の式場の前提は次のとおりです。すべて想定です。
- 挙式は年120組。過去5年、毎年同じ組数で、卒花の二人が累計600組いる
- 案内するのは、結婚記念日の1か月前。1年目から5年目までの記念日ごとに1通
- ディナーは2名で3万円。平日の夜に、通常の営業とは別に用意する
- 粗利は4割。1組あたり1.2万円
- 案内の印刷と郵送で1通200円
- 案内を作り、宛先を管理し、予約を受けて当日の席を準備する担当者の時間が年36時間。時給換算で2,000円とすると7.2万円
- 申込率は、1年目が6%、2年目4%、3年目3%、4年目2%、5年目1.5%。年を重ねるほど連絡先も古くなり、思い入れも薄れるという想定で置いた数字です
申込率の置き方が一番あやしい部分です。ここは実際に半年送ってみないと分かりません。後で、半分だったらどうなるかも計算します。
5年分を送ったときの損益
対象の組数は、毎年の記念日を迎える二人です。1年目の二人が120組、2年目が120組、と5年分で600組です。
申込は、1年目が120×6%で7.2組、2年目が4.8組、3年目が3.6組、4年目が2.4組、5年目が1.8組。合計は19.8組になります。
粗利は19.8組×1.2万円で23.8万円。かかる費用は、郵送が600通×200円で12万円、担当者の時間が7.2万円で、合計19.2万円です。差し引きは約4.6万円の黒字です。
月に直すと約4,000円。ディナー自体は年に20組弱しか出ず、週に1組もありません。売上で見ても、19.8組×3万円で59.4万円です。式場の年間売上が数億円なら、1%にも届きません。
ここで見落としやすいのは、損益分岐の申込率が低くないことです。必要な申込は19.2万円÷1.2万円で16組。対象600組のうちの2.7%です。つまり、申込率が平均2.7%を超えれば黒字、切れば赤字になります。仮置きでは平均3.3%(19.8÷600)なので、余裕は0.6ポイントしかありません。
何年目まで送るか
申込率が年々落ちるなら、5年目まで送る意味があるのか、という疑問が出ます。同じ前提で、対象の年数を変えて計算しました。
| 対象 | 通数 | 申込 | 粗利 | 費用 | 損益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目だけ | 120 | 7.2組 | 8.6万円 | 6.0万円 | +2.6万円 |
| 2年目まで | 240 | 12.0組 | 14.4万円 | 9.6万円 | +4.8万円 |
| 3年目まで | 360 | 15.6組 | 18.7万円 | 13.2万円 | +5.5万円 |
| 5年目まで | 600 | 19.8組 | 23.8万円 | 19.2万円 | +4.6万円 |
運用時間は、対象が広がるほど増えるものとして、1年目だけが年18時間、2年目まで24時間、3年目まで30時間、5年目まで36時間と置いています。
損益がもっとも大きいのは3年目までの+5.5万円です。5年目まで広げると、増えるのは申込4.2組で粗利5.0万円、増えるコストは郵送4.8万円と担当者の時間1.2万円なので、追加分はほぼ収支ゼロどころか、わずかにマイナスです。
見方を変えると、4年目と5年目の案内は、1通あたりの粗利が申込率2%で240円、1.5%で180円。郵送の200円とほぼ同じです。手間を考えれば、やめてもいいラインです。
もう一つ分かるのは、いずれの年数でも黒字の幅がほとんど変わらないことです。1年目だけなら2.6万円、いちばん良くて5.5万円。この施策で増える利益は、どの設計でも数万円の差しかありません。
粗利と申込率で赤字になる
前提を動かして、どこで赤字に落ちるかを見ます。
粗利を3割(1組9,000円)にすると、5年分で19.8組×9,000円が17.8万円。費用は19.2万円のままなので、1.4万円の赤字になります。5割(1.5万円)なら、29.7万円−19.2万円で+10.5万円です。粗利が1割変わるだけで、損益が6万円前後動きます。ディナーの粗利のほうが、対象の広さより効きます。
申込率が仮置きの半分だったら、どうなるか。5年分では9.9組で粗利11.9万円、費用は19.2万円。7.3万円の赤字です。2年目までに絞れば、6.0組で7.2万円、費用9.6万円で2.4万円の赤字。赤字の幅は小さく済みます。
つまり、申込率が読めない最初の1年は、2年目までに絞って始めるのが堅い、というのが仮置きから出る答えです。半年送って実際の申込率が見えたら、3年目までに広げるかどうかを決める。これなら、外れても損は数万円に収まります。
「どうせ来た人」と枠の取り合い
ここまでの計算は、ディナーの申込がすべて追加の売上だという前提です。実際は二つの割り引きが要ります。
一つは、案内がなくても記念日に来店していた二人です。会場のレストランが一般にも開いているなら、記念日に自分で予約する卒花もいるはずです。その二人の粗利は、案内で増えた分ではありません。申込の半分がそうだとすると、増える粗利は半分になり、5年分では約7.3万円の赤字、2年目までに絞っても2.4万円の赤字です。
もう一つは、平日の夜の枠です。通常のレストランやパーティの営業で売れる枠なら、記念日ディナーが入った分だけ、別の売上を取り損ねます。枠が空いている日にだけ受ける、と決めれば避けられます。ただしそれは、案内を「いつでも予約できます」と書けないことを意味します。申込の日付を会場が選ぶ形にすると、二人にとっては記念日当日に行けないことになり、申込率は下がります。
この二つは、仮置きの数字では表せません。会場ごとに、記念日の来店が元からどれくらいあるか、平日夜の稼働がどうなっているかを数えるしかない部分です。
宛先が古くなる問題
申込率が年々落ちる理由の一つは、二人の気持ちが薄れることではなく、案内が届かないことかもしれません。結婚して数年のうちに、引っ越す二人は少なくないはずです。住所が変わっていれば、郵送した200円は戻ってきません。仮の式場で、5年目の宛先のうち1割が不達だとすると、5年目の120組分ではなく、届いた108組に対して案内を出していたことになります。申込率1.5%は、届いた二人に対しての数字ではなく、送った全員に対しての数字になるので、不達が多い年ほど「反応が薄い」ように見えます。
だから、どの年も一律で郵送するより、メールやLINEなど連絡先が変わりにくい手段で案内できる二人には、そちらを使うほうが費用も下がります。ただし、挙式後に連絡手段を聞いて同意を得ていなければ使えません。同意の取り方は、契約書や最終打ち合わせの書類に欄を一つ足す程度の話ですが、これを決めていない会場では、案内の設計を考える前の段階で止まります。
案内を出す時期も決めておきます。記念日の1か月前に出すと、予約が取りやすく、枠の調整もできます。記念日の1週間前では、二人はすでに別の店を押さえているかもしれません。この記事の前提は1か月前です。
数えるものは三つ
実際に始めるなら、数えるものは三つに絞れます。
- 案内の通数と、申込の組数。年ごとに分けて数える。申込率の落ち方が仮置きより急か緩いかで、何年目まで送るかが決まります
- 申込した二人のうち、案内がなくても来店していた割合。予約の時に「いつもこちらで記念日を過ごしていますか」と聞くのが早いです
- 担当者の時間。案内の作成、宛先の更新、予約対応、当日の準備を、実際にかかった時間で記録します。仮置きの年36時間が、半分で済むのか倍かかるのかで、損益が数万円動きます
運用の時間が2倍の72時間になると、費用は5年分で26.4万円まで増え、仮置きの粗利23.8万円を上回ります。逆に18時間で回せるなら、費用は15.6万円で8.2万円の黒字です。担当者の時間は、郵送費よりもはるかに効きます。
続ける判断の置き方
記念日ディナーの案内は、利益を出す施策として設計すると、数万円の話に付き合うことになります。始める前に、これは利益の施策なのか、そうでないのかを決めておく必要があります。
利益の施策として扱うなら、損益分岐は「平均の申込率が2.7%を超えるか」だけです。半年送って、1年目と2年目の申込率が仮置きの6%と4%を下回るなら、そこで止める。これは計算で決められます。
別の目的を置くなら、損益の数字は目的に使った費用として見るのが筋です。たとえば、卒花の二人と連絡を取り続けるための経費として考える場合です。ただしその場合も、経費として許せる額を先に決めます。仮の式場なら年5万円前後が上限になります。それを超えて郵送を増やしたり、無料のドリンクを付けたりすると、目的が曖昧なまま費用だけが膨らみます。
どちらの場合も、最初の1年は2年目までの対象に絞り、通数を240通に抑える。ここは変わりません。
まとめ
- 仮の式場(年120組、ディナー3万円、粗利4割)では、記念日ディナーの案内は5年分で年4.6万円の黒字。粗利が3割なら1.4万円の赤字
- 損益分岐は、対象全体の申込率が平均2.7%。仮置きの3.3%との余裕は0.6ポイントしかない
- 損益がもっとも大きいのは3年目までの+5.5万円。4年目と5年目の案内は、1通の粗利が郵送費とほぼ同じ
- 申込率が仮置きの半分なら、5年分は7.3万円の赤字、2年目までなら2.4万円の赤字。最初は2年目までに絞る
- 申込の半分が「案内がなくても来店した人」なら、増える粗利も半分になる
- 動かすなら、年ごとの申込率、案内がなくても来店していた割合、担当者の時間の3つを数える
