挙式後の待ち時間のドリンクは、無料か有料か|式場の粗利で決める
挙式が終わってから披露宴が始まるまでの間、ゲストはロビーやラウンジで待ちます。この待ち時間に出すドリンクを、無料のサービスにするか、有料のオプションにするか。式場によって扱いはばらばらです。
この判断は「おもてなしか、売上か」という二択で語られがちですが、実際に決めるのは3つの数字です。待ち時間の長さ、ドリンクの原価、そして有料にしたときに二人が外す割合です。今日はこの3つで、どちらが式場の手元に残るかを計算します。
先にお断りしておくと、この記事の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。式場の統計や調査ではありません。自分の式場の数字に置き換えて使ってください。
待ち時間のドリンクが問題になる場面
挙式と披露宴は、同じ日に続けて行われます。ただ、挙式が終わった直後に披露宴が始まるわけではありません。ゲストは挙式会場から移動して、受付や席への案内を待ち、披露宴会場の準備が整うのを待ちます。この間に、二人が写真を撮る時間も入ります。
この待ち時間は、式場の運営では「どう過ごしてもらうか」を決めなければならない時間です。何も出さなければ、ゲストはスマートフォンを見て過ごします。ドリンクを出せば、会話が生まれ、写真を撮る時間も自然に埋まります。
その一方で、ドリンクを出すと、原価とスタッフの手間がかかります。ここが「無料か有料か」の分かれ目です。
まず、待ち時間を二人の側から見る
ドリンクの話に入る前に、二人がこの時間をどう思っているかを置いておきます。
二人にとって、待ち時間は、ゲストを待たせている時間です。親族や友人が遠くから来ているほど、「待たせて申し訳ない」という気持ちが強くなります。ドリンクがあることは、その気持ちを軽くする手段です。
つまり、二人がドリンクに払いたいのは、飲み物代というより「待たせることへの手当て」です。この見方をすると、有料オプションの出し方も変わります。「ドリンク1杯いくら」ではなく、「待ち時間を快適にする費用」として見せることになります。
計算の前提を置く
仮に、次の前提で考えます。
- ゲストは70名
- 待ち時間は30分で、1人1〜2杯を提供する
- ドリンクの原価は、1人あたり250円(ソフトドリンク中心で、アルコールは一部)
- 有料にする場合の販売価格は、1人あたり1,000円
人件費やグラスの洗浄、ドリンクカウンターの準備にかかる手間は、ここでは除いて、材料の原価だけで見ます。実際には手間の分だけ負担が増えるので、無料にしたときの負担は、この計算より重くなります。
無料にしたときと、有料にしたときの1組あたりの差
無料にすると、1組あたりの負担は、原価の分だけです。
- 70名 × 250円 = 17,500円
これが、1組あたりの持ち出しです。
有料にして、二人が全員分を申し込んだ場合は、こうなります。
- 売上:70名 × 1,000円 = 70,000円
- 原価:70名 × 250円 = 17,500円
- 粗利:52,500円
無料と有料の差は、1組あたり、17,500円の持ち出しが、52,500円の粗利に変わる分、つまり70,000円です。
ただし、これは二人が必ず申し込む前提の計算です。実際には、有料にすると「いらない」と外す二人が出ます。ここからが本題です。
有料にして、外す二人が出たらどうなるか
有料にした場合の損益は、申し込む二人の割合で決まります。仮に、申し込む割合を変えて並べます。年間の組数は60組と置きます。
| 申し込む割合 | 1組あたりの粗利 | 年間60組の粗利 |
|---|---|---|
| 100% | 52,500円 | 3,150,000円 |
| 70% | 36,750円 | 2,205,000円 |
| 50% | 26,250円 | 1,575,000円 |
| 30% | 15,750円 | 945,000円 |
申し込まなかった二人は、ドリンクが出ないので、原価もかかりません。そのため、申し込む割合が下がっても、1組あたりの粗利は割合に比例して減るだけで、マイナスにはなりません。
では、有料にすれば、いつでも無料より得なのか。ここに、見落としやすい点があります。
有料にして外した二人は、待ち時間に何が起きるか
有料のオプションを外した二人の披露宴では、待ち時間に何も出ません。ゲストは水も飲めず、30分待つことになります。これは、二人にとって、あまり気持ちのよい状態ではありません。
ここで起きるのは、次の3つのどれかです。
- 二人が「やっぱりドリンクが必要だった」と思い、当日に追加で頼む。この場合、準備していなかったスタッフの手間が増えます
- ゲストが待ち時間に不満を感じ、アンケートや口コミに「待たされた」と書く
- 二人が、他の項目(引き出物や装花など)でも、手当てを削ることに慎重になる
最初の当日追加は、手間は増えますが、売上にはなります。2つ目の口コミは、式場の評価に残ります。この口コミ側の損失は、計算しにくいのですが、無視できません。式場のGoogleマップの低評価は、見学前の二人にも読まれます。
ですから、有料にするなら、「外した二人が困らない状態」を作っておくことが前提になります。たとえば、水とお茶のセルフサービスだけは、無料で置いておく。有料のドリンクは、その上に乗せる「選べる飲み物」にする。この設計なら、外した二人も、待ち時間に何もない状態にはなりません。
無料にしてよい条件
では、どんなときに無料にしてよいのか。次の3つのうち、当てはまるものがあるなら、無料のほうが全体として得になる可能性があります。
条件1:待ち時間が短い
待ち時間が15分以内なら、ドリンクの必要性は下がります。ゲストはロビーに着いて、すぐ席に案内されます。この場合、水とお茶を置いておくだけで足ります。有料にするかどうかを議論する意味も薄くなります。
条件2:人数が少ない
ゲストが30名を下回る披露宴では、原価の総額が小さくなります。仮の原価250円で30名なら、7,500円です。この金額なら、無料にして、二人への「手当て」として見せたほうが、契約の決め手になる場面が出てきます。
条件3:値引きの代わりに使える
無料で付けるドリンクは、値引きの代わりに使えます。「飲み物は無料で付けます」と言うほうが、料金表の他の項目を値引きするより、1組あたりの負担が小さい場合があります。
たとえば、10万円の値引きを求められたとき、ドリンクを無料にして17,500円の持ち出しで収められるなら、差額の82,500円が残ります。値引きの代わりに「付けるもの」として、ドリンクを使う。これは、有料にして売るより、ずっと明快な使い方です。ただし、二人が本当に値引きの代わりとして受け取ってくれるかは、別の話です。受け取られなければ、17,500円を出した上で、値引きも求められます。
有料にするなら、決めておくこと
反対に、有料のオプションにするなら、次の4つを先に決めておきます。
- 無料で置くもの:水とお茶は無料にするか。ここを決めないと、「何も出ない式場」になります
- 有料で選べるもの:スパークリングワイン、ノンアルコール、ジュースなど、いくつ用意するか。数が多いほど準備の手間が増えます
- 申し込みの締め切り:人数が確定する時期(披露宴の1〜2週間前)と合わせます。直前の追加は、受けるか、受けないか
- 当日の担当者:ドリンクを出すのは、ホールのスタッフか、専任か。この時間帯は、挙式後の誘導とも重なります
特に4つ目は、見落としやすい点です。挙式の直後は、ゲストの誘導、二人の写真撮影、披露宴会場の最終確認と、ホールのスタッフの手が足りなくなる時間です。ここにドリンクの提供が加わると、どこかの作業が遅れます。ドリンクの原価より、この人手のほうが、実際には重い負担になっていることがあります。
人手を数えると、答えが逆になることがある
人手を金額にしてみます。これも仮の数字です。ホールのスタッフ1人の1時間あたりの人件費を2,000円と置きます。待ち時間のドリンク提供に、準備と片付けを含めて2人が1時間かかるとすると、4,000円です。
この4,000円を、原価17,500円に足すと、無料にしたときの1組あたりの負担は21,500円です。60組なら、年間で129万円です。数字だけ見れば、大きな負担ではありません。
けれど、土日の繁忙日にこの2人を確保できない場合は話が別です。別の作業を止めるか、人を追加で呼ぶか。追加で呼べば、その分の費用が上積みされます。有料にして、申し込んだ組だけにドリンクを出す形なら、この人手の発生も申し込んだ組だけに絞れます。無料で全組に出す形と比べると、人手の負担は、申し込む割合の分だけ小さくなります。
つまり、粗利の差だけでなく、「繁忙日に人手を割けるか」が、無料か有料かを逆転させることがあります。
数字を取り直すなら、この3つ
仮の計算を、自社の数字に置き換えるときは、次の3つを取ります。
- 自社の待ち時間(挙式の終わりから、披露宴の入場まで)の実績。10組分の平均でよい
- ドリンクの実際の原価。1人あたり1杯の原価に、平均の杯数をかけた値
- 有料にした場合に申し込む割合。これは、実際に有料にして数組試さないと分かりません
3つ目の申し込む割合は、計算では置けても、実測でしか分かりません。まず、1〜2か月だけ、有料のオプションを試験的に出して、申し込みの割合を測る。この方法なら、リスクを小さくして、数字を取れます。
まとめ
- 挙式後の待ち時間のドリンクは、「おもてなしか、売上か」ではなく、待ち時間の長さ、原価、有料にしたときの申し込み割合の3つで決める
- 仮の前提(70名・原価250円・販売1,000円)では、無料の持ち出しは1組17,500円。有料で全員が申し込めば粗利は52,500円で、差は70,000円
- 有料にしても、申し込む割合が下がれば粗利は比例して減る。50%なら年間60組で約157万円という計算になる
- 有料にする場合は、水とお茶を無料で置き、外した二人が困らない状態を先に作る
- 待ち時間が15分以内、ゲストが30名未満、値引きの代わりに使いたい、のどれかなら、無料で付けるほうが得な場面がある
- 実際の負担は、原価より、挙式直後にホールのスタッフの手が取られることのほうが重い場合がある
- まず1〜2か月だけ有料で試し、自社の申し込み割合を実測してから、本格的に決める
