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結婚式場の広告運用は、代理店に任せても名義は自社に置く

結婚式場が広告の運用を代理店に任せるとき、運用の腕前より先に決めておくことがあります。広告アカウントを、誰の名義で持つかです。僕の結論は、運用は任せても、アカウントの持ち主は自社に置く、です。

この話は地味なので、契約の場面では後回しにされがちです。ところが、代理店を替えたいと思った日にだけ、急に最大の論点になります。それまでの数年分の配信データと、積み上げた設定が、手元に残るのか残らないのか。ここで差がつきます。

この記事では、アカウントの名義で何が変わるのかを、仕組みから順に整理します。途中に出てくる損失の計算は、僕が置いた仮の前提です。実在の式場の数字ではないので、自分の会場の数字に入れ替えて読んでください。

広告アカウントの持ち主とは何か

広告アカウントは、広告の入れ物です。Googleでも、Instagramを含むMetaでも、キャンペーンの設定、配信の履歴、クリックや問い合わせの計測、使ったキーワードやオーディエンスの設定が、ひとつのアカウントの中に溜まっていきます。

持ち主とは、このアカウントの管理者権限を最後に握っている人のことです。請求先がどこかとは、また別の話になります。

代理店に運用を任せる形は、大きく二つに分かれます。

  • 自社が広告アカウントを開設し、代理店の担当者を管理者や編集者として招く形
  • 代理店が自社の管理アカウントの下に、式場用のアカウントを作って運用する形

前者は、持ち主が式場です。後者は、持ち主が代理店になっていることがあります。見た目は同じ管理画面で、数字も同じように見えます。違いが出るのは、解約のときです。

解約の日に起きること

Google広告のヘルプでは、代理店の管理者アカウントとのリンクを解除する操作が説明されています。解除しても、アカウントのキャンペーンの履歴や機能は失われないと書かれています。解除したあとは、そのアカウントの持ち主が、別の管理者アカウントとリンクし直すこともできます。

ここで大事なのは、解除の条件です。ヘルプによると、解除の対象になるアカウントに、少なくとも一人、アクセス権を持つユーザーがいる必要があります。もし式場の人が誰もそのアカウントに入れない形で運用されていると、式場側からは解除を進められません。

アカウントの所有権を別のGoogleアカウントに移す手順も、公式に用意されています。新しい持ち主になる人のメールアドレスを管理者として招待し、受けた側が管理者になったあとで、元の人がアクセスを外す流れです。つまり、仕組みとしては、あとから持ち主を替えられます。

ただ、仕組みがあることと、代理店が移管に応じることは別の話です。広告運用代行の解約をめぐるトラブルを扱う、あるサービスのブログ記事では、最低契約期間が終わって円満に解約しようとしても、アカウント権限の引き継ぎという別の問題にぶつかる発注者が増えていると指摘されています。同じ記事は、広告主が自分でアカウントを開設し、代理店の担当者を管理者や編集者として招く形を勧めています。この形なら、解約するときは代理店の権限を外すだけで済むからです。

これは一つの事業者の見解です。業界全体で何割がトラブルになっているのかという数字は、僕は確認できていません。ただ、仕組みを見ると、この勧めには筋が通っています。権限を外すだけで終わる形と、持ち主の交渉から始まる形では、解約の日の手間がまるで違います。

名義を自社に置くと、何が守られるか

名義を自社に置いて守られるものは、三つあります。

一つ目は、配信の履歴です。どの時期に、どの言葉で、いくらかけて、何件の問い合わせが来たか。この履歴は、次の代理店が最初に読む資料になります。履歴が手元にあれば、新しい運用者は、過去に試して外れた設定を繰り返さずに済みます。

二つ目は、計測の設定です。問い合わせフォームの送信や、電話のタップ、来館予約の完了といった成果の計測は、アカウントやその周辺の設定にひも付いています。アカウントが替わると、この計測を一から組み直すことになります。組み直している間は、広告が何を連れてきたのかを数えられません。

三つ目は、判断を自社の側で続けられることです。名義が代理店にあると、広告を止める、予算を動かすといった判断を、式場が自分の画面で確かめられなくなります。代理店からの月次報告だけが唯一の情報源になります。報告の数字が正しいかどうかを、式場が確かめる道がありません。

仮の前提で、損失を数える

名義が代理店にあって、アカウントが戻らなかった場合の損失を、仮の前提で計算します。

  • 月の広告費は80万円。この広告から、月に6組が成約している(仮)
  • アカウントを作り直し、計測を組み直して学習し直すあいだ、成約が半分に落ちる(仮)
  • 落ちた状態が2か月続く(仮)
  • 1組あたりの粗利は100万円(仮)

月に3組が減り、それが2か月続くので、減る成約は合わせて6組です。粗利にすると600万円になります。広告費の2か月分、160万円と比べても、約3.75倍です。

もちろん、これは僕が置いた前提です。成約が半分に落ちるのか、1割しか落ちないのか。落ちた状態が何か月続くのか。実際の式場の数字は、条件ごとに違うはずです。

ただ、この計算が示すものがあります。名義の問題は、年に何万円の手数料の話ではなく、数組の成約を動かしうる話だということです。式場の経営者が数えるべき損失は、解約時に代理店に払う費用ではなく、切り替えの間に減る成約のほうです。

自分の会場で試すときは、次の三つの数字を入れ替えるだけで足ります。

  • 今の広告から、月に何組が成約しているか
  • 切り替えで成約が何割落ちると見るか(過去に媒体を変えたときの落ち方が、参考になります)
  • 落ちた状態が何か月続くか

Metaの広告は、パートナー追加か自社所有かで見る

MetaのビジネスマネージャやビジネスポートフォリオはGoogleと作りが違います。広告アカウントは、ビジネスに「所有」される形で作られます。外部の代理店は、ユーザーとしてではなく、パートナーとして、特定の資産へのアクセスを共有される形で追加されます。

ここでも見るのは、広告アカウントが、どのビジネスに所属しているかです。式場のビジネスが所有していて、代理店がパートナーとして入っているなら、パートナーとの共有を外すことで関係を終えられます。代理店のビジネスが所有していて、式場がアクセスを借りている形だと、式場側は外す側ではなく、外される側にいます。

個人のユーザーを外す操作と、パートナーを外す操作は、画面上でも別の手順になっています。解約の日に、どちらを使えばよいのか迷わないよう、運用を始めるときに、誰が何の資産を持っているかを一覧にしておくことをお勧めします。

契約前に決めておく4つの項目

名義を自社に置くと決めたら、契約書か覚書に、次の4つを書いておくと安心です。契約の書き方は会社ごとに違うので、実際の文言は、契約の専門家に確認してください。

アカウントの所有者

広告アカウントの所有者は式場であること。式場の側に、管理者権限を持つ担当者が最低一人いること。担当者が退職したときのために、二人目の管理者も決めておきます。

解約時の権限の返還

契約が終わったときに、代理店が権限を外すまでの期限を決めます。権限が残っている間は、代理店が配信を続けられる状態です。何日以内に外すのかを、日数で書いておきます。

データとレポートの扱い

配信の履歴、計測の設定、月次レポートの元データを、式場が受け取れること。形式も決めておきます。画面のスクリーンショットだけでは、次の運用者は使えません。

計測の設定の持ち主

広告の成果を測るために入れた計測の設定、たとえばアクセス解析のプロパティや、問い合わせ計測のタグも、式場の側で持ちます。広告アカウントだけを自社名義にしても、計測が代理店側に残っていると、解約の日に数字の連続性が途切れます。

この4つは、代理店を疑うためのものではありません。担当者が替わったとき、代理店が廃業したとき、会社の事情が変わったとき、どちらの側にも起こりうる出来事に、先に備えておくためのものです。

代理店の側から見ても、名義が自社にあるほうがよい理由

名義を自社に置くことは、代理店にとっても不利な話ではありません。式場の経営者が、代理店の仕事ぶりを自分の画面で確かめられるからです。

報告の数字と画面の数字が一致していれば、疑いは生まれません。反対に、数字を見せてもらえない状態が続けば、成果が出ているときでも、出ていないときでも、式場は運用の良し悪しを検証できません。検証できないまま続く契約は、双方にとって不安定です。

契約の話し合いのとき、アカウントを自社名義にしたいと伝えて嫌な顔をする相手がいたら、それ自体が判断材料になります。僕はそう考えています。ただ、すべての代理店が悪いと言いたいわけではありません。自社の管理アカウントの下で運用する体制に利点がある場合もあります。その場合でも、解約時の返還の約束と、権限の期限を文書にしておけば、リスクはかなり下がります。

すでに代理店名義で運用している式場は、どうするか

すでに代理店の名義で動いているなら、今の運用を止めずに、持ち主を移す手順を考えます。

最初にやるのは、現状の確認です。広告アカウントに式場の誰かがログインできるか。その人の権限は、管理者か、閲覧だけか。アカウントがどの管理者アカウントの下にあるか。ここまで確認するだけで、現状のリスクが見えます。

そのうえで、代理店に、所有権の移管か、式場名義のアカウントの新設のどちらがよいかを相談します。移管ができるなら、履歴も計測も残ります。新設になるなら、並行して走らせる期間を作り、新しいアカウントで学習が進んだところで古いほうを止める。この順番にすれば、成約の落ち込みを小さくできるはずです。

切り替えのタイミングも大事です。繁忙期の直前や、ブライダルフェアの集客が山になる時期は避けて、問い合わせの波が低い時期に動かします。

まとめ

  • 広告アカウントの持ち主は、請求先とは別に決まる。管理者権限を最後に握っている側が持ち主
  • 運用は代理店に任せてよい。ただし、アカウントの名義は式場に置く
  • Googleのヘルプでは、リンクの解除でキャンペーンの履歴は失われない。ただし、解除には式場側のアクセス権が前提になる
  • 名義が代理店にあると、解約の日に交渉から始まる。権限を外すだけの形とは手間が大きく違う
  • 仮の前提で計算すると、切り替えで成約が半分に落ちる2か月の損失は、広告費の2か月分を大きく超える
  • 契約前に、所有者、解約時の権限返還、データの受け取り、計測設定の持ち主の4つを書いておく
  • すでに代理店名義なら、まず現状のログイン権限を確認し、並行運用で移す