見学に来なかった人が、あとで決めている。同席できない家族がいる組の成約率が20%なら、持ち帰りの設計で月2.4組が動く
見学の席で一番よく話しているのは、新郎新婦です。プランナーが説明する相手も、基本はこの2人です。
ただ、費用を出す人、日程の都合をつける人、招待客の顔ぶれに口を出す人が、その場にいるとは限りません。親が遠方に住んでいる。パートナーが仕事で来られなかった。祖父母の意向を無視できない。そういう組は、見学の席で「いいですね」と言っても、家に帰ってから別の話になります。
この記事では、見学に同席していない人を「不在の決裁者」と呼びます。肩書きの話ではありません。契約するかどうかに、実質的に口を出せる人のことです。
先に断っておくと、不在の決裁者がいる組が全国でどのくらいの割合か、その組の成約率がどのくらい低いかを示す調査は、僕が探した範囲では見つかっていません。親の同席率を測った公開データも、確認できませんでした。なので、この記事の数字はすべて、仮の式場を置いたモデル計算です。割合も成約率も僕の想定で、実際の数字ではありません。自分の会場の記録に置き換えて使ってください。
不在の決裁者は、見学の場で見えない
見学の席で、決裁者が不在だと気づく方法は意外と少ないんですよね。
新郎新婦が自分から言ってくれることもあります。ただ、多くは言いません。親に費用を出してもらう予定なのか、承諾が要るのか、本人たちも決まっていないことがあるからです。聞かれなければ、見学の最後に「一度持ち帰って相談します」と言うだけです。
この「持ち帰ります」の一言が、不在の決裁者がいる合図です。ただ、同じ言葉は、単に迷っている組も、他の式場と比べたい組も使います。見学の席で区別がつかないまま、全員に同じ見積もりと同じ資料を渡して送り出していることが多いと思います。
区別がつかないのは、聞き方の問題でもあります。「いかがでしょうか」「ご検討ください」では、答えが「持ち帰ります」になるのは当然です。「このあと、どなたとお話しされる予定ですか」と聞けば、不在の決裁者の名前が出ることがあります。
仮の式場で、不在の組の分を計算する
仮の式場を置きます。すべて想定です。
- 月の来館は60組
- そのうち、決裁に関わる人が全員そろっている組は60%(36組)、誰かが不在の組は40%(24組)
- 全員そろっている組の成約率は40%
- 不在の組の成約率は20%
- 1組の粗利は100万円
成約は、全員そろっている組が36 × 40% = 14.4組。不在の組が24 × 20% = 4.8組。合計19.2組で、月全体の成約率は32%です。
不在の組が全体の4割いるのに、成約の4分の1しか出していません。不在の組は、見学までは同じ流れで来ています。落ちるのは、持ち帰ったあとです。
ここで、不在の組の成約率を上げる施策ができたとします。20%が25%、30%、35%になったときの成約の増え方は、次のとおりです。
| 不在の組の成約率 | 増える成約 | 月の粗利の増加 |
|---|---|---|
| 25% | 1.2組 | 120万円 |
| 30% | 2.4組 | 240万円 |
| 35% | 3.6組 | 360万円 |
不在の組の成約率を10ポイント上げると、月2.4組、粗利で240万円です。全員そろっている組の成約率を10ポイント上げようとすると、36組に効くので3.6組になります。数字だけ見ると、そろっている組のほうが効きそうに見えます。
ただ、そろっている組は、すでに見学の席で決められる人が全員います。そこから成約率を10ポイント上げるのは、接客の質を大きく変えないと難しいはずです。不在の組は、見学の席でできることが少ないぶん、持ち帰りの設計を変えるだけで動く余地があると考えています。これは僕の見立てで、検証した話ではありません。
不在の割合が違うと、効き方は変わる
不在の組の割合を変えると、同じ「成約率10ポイント上げる」の効き方がどう変わるかも見ておきます。他の前提は同じです。
| 不在の組の割合 | 不在の組の数 | 10ポイント上げたときに増える成約 |
|---|---|---|
| 20% | 12組 | 1.2組 |
| 40% | 24組 | 2.4組 |
| 60% | 36組 | 3.6組 |
不在の割合が高い会場ほど、効きます。逆に言うと、自分の会場で不在の組が何割いるのかが分からないと、この施策に力を入れるべきかどうかが判断できません。
不在の割合は、新規予約の時点で聞けます。予約フォームに「ご来館のご予定の方」の欄を1つ置いて、新郎新婦の2人だけか、ご両親も一緒か、を選んでもらいます。月に60組あれば、1か月で割合が出ます。聞くだけなので、費用はほとんどかかりません。
持ち帰りの設計は、3つに分けて考える
不在の決裁者に届く形に変える方法は、大きく3つあります。どれが効くかは、不在の人が誰かで変わります。
見学の前に、同席を提案する
一番手前の手は、見学の予約の時点で、決裁者が来られる日に寄せることです。
親が遠方に住んでいる組には、帰省に合わせた日程を提案します。パートナーの仕事の都合なら、夕方や土日の枠を案内します。フェアの枠を満たすために、予約が入った日をそのまま使う運用だと、この調整はしません。
ただ、日程を寄せると、予約の数が減ります。来館が月60組から55組に減っても、不在の組が減って成約率が上がれば元は取れます。ここは、後の節で損益分岐を計算します。
見学の最中に、オンラインでつなぐ
その場に来られないなら、つなぐ手もあります。見学の途中で、不在の人とビデオ通話をつなぎ、会場を見せながら説明します。
準備はスマートフォン1台と、通話の時間です。プランナーが何分使うかは会場によりますが、10〜15分は見ておいたほうがいいと思います。説明の中身は、新郎新婦に話している内容を、もう一度聞いてもらうだけで済みます。
新郎新婦にとっては、自分たちで親に説明し直す手間がなくなります。「見た人」と「見ていない人」の差が、その場で縮みます。
見学のあとに、持ち帰る資料を決裁者向けに作る
3つ目は、持ち帰る資料です。見積もり書をそのまま渡すと、見学に来ていない人は、数字と項目だけを見ることになります。
不在の人が知りたいのは、たいてい次の3つだと思います。
- いくらかかるのか、そのうち誰が何を出すことになりそうか
- 日程と、招待客の人数の目安
- 会場の雰囲気(写真や動画)
見積もり書の隣に、1枚で読める説明を付けます。総額、内訳の大きなところ、日程の候補、写真。これを新郎新婦が親に見せる前提で作ります。
逆に、載せないほうがいいのは、専門用語と、オプションの細かい一覧です。不在の人は見学で説明を受けていないので、読んでも判断できません。迷う材料が増えるだけです。
持ち帰りに30万円かけたら、何%上がれば元が取れるか
施策に費用がかかる場合の損益分岐も、同じ仮の式場で見ておきます。
不在の組24組に対して、1組あたり3万円の費用がかかるとします。オンラインでつなぐ10〜15分のプランナーの時間、資料の制作と印刷、日程調整の手間を、すべて合わせた想定額です。
月の費用は、24 × 3万円 = 72万円。1組の粗利が100万円なので、72万円は0.72組分です。24組に対して0.72組、つまり不在の組の成約率が3ポイント上がれば、費用は回収できます。20%が23%になれば、元が取れる計算です。
費用を1組5万円まで増やした場合は、月120万円で1.2組分、24組に対して5ポイントが分岐です。費用を1万円に抑えられるなら、分岐は1ポイントになります。
つまり、不在の組に3万円かけても、成約率が3ポイント上がれば足ります。さきほどの10ポイントは、うまくいった場合の想定です。分岐の3ポイントは、そこから大きく割り引いた数字なので、試す価値があるかどうかを判断する材料になります。
誰が不在かで、打ち手を変える
不在の決裁者といっても、親、パートナー、祖父母で動き方が違います。
親が費用を出す組では、親は「いくらになるのか」と「うちの親戚をどこまで呼べるのか」を気にします。この場合、資料に書くのは総額の目安と、招待人数の考え方です。親が出す金額が決まっていない組は、見学のあとで金額を決めます。その金額を決める材料を渡すのが、資料の役目です。
パートナーが不在の組は、ほとんどが日程の都合か、仕事です。来られなかった側は、見ていない会場を、もう片方の説明だけで判断することになります。ここはオンラインでつなぐのが効きやすいと思います。写真を送るだけでは、説明する側の負担が残ります。
祖父母が絡む組は、少数です。招待の範囲や、挙式のスタイル(神前か、チャペルか)に意向があるケースが多いと思います。こういう組は、見学の席で名前が出ることが多いので、そこで聞いておけば足ります。
どの場合も共通しているのは、見学の席で「誰が決めるのか」を聞いているかどうかです。聞かなければ分からないし、聞いても答えが曖昧なら、それが「持ち帰ります」の中身です。
この計算の限界
最後に、この計算の弱いところを書いておきます。
まず、不在の組の成約率が20%という数字は、僕が置いた想定です。実際は、不在の組のほうが高い会場もあるかもしれません。見学で盛り上がった組が親を連れて2回目に来る、という流れが多い会場では、そもそも1回目の見学に親がいないほうが普通で、成約率は高く出ます。
次に、全員そろっている組の成約率が40%という数字も想定です。この2つの差が小さければ、そもそも不在の組を特別扱いする意味は薄くなります。自分の会場で、同席者の人数別に成約率を出してみるのが先です。
それから、因果の問題があります。不在の組の成約率が低くても、不在だから低いのか、もともと熱量が低くて親を連れてこないのか、見分けがつきません。同席を促した結果、成約率が上がったかどうかを、日程調整をした組としていない組で比べるしかありません。ただ、前に書いた記事のとおり、月の成約率は偶然だけで大きく揺れます。数か月は続けないと、効果は読めません。
まとめ
- 見学に同席していない決裁者がいる組は、持ち帰ったあとで話が変わりやすい組です。「持ち帰ります」の一言は、その合図になりえます
- 仮の式場(月60組来館、うち40%が不在)では、不在の組の成約率が20%から30%に上がると、月2.4組、粗利で240万円増えます。不在の割合が高い会場ほど、効き方は大きくなります
- 打ち手は3つです。見学前に同席を提案する、見学中にオンラインでつなぐ、決裁者向けの1枚を持ち帰ってもらう。誰が不在かで、どれが効くかは変わります
- 1組3万円かけても、不在の組の成約率が3ポイント上がれば元が取れます。分岐は、費用を1万円に抑えれば1ポイントまで下がります
- 先にやるのは、予約フォームに来館予定の人を聞く欄を置くことです。不在の割合と、同席者別の成約率が分からないうちは、どこに力を入れるかを決められません
見学の席にいない人が、契約を決めていることがあります。そこに届く資料を作っているかどうかが、成約率の差になる場合があります。
